日時12月16日(土)日本時間22時〜
参加者現役生
・甲斐夏輝(カイ・ナツキ)、European Sport Business School在学(スペイン)
・前川友穂(マエカワ・トモホ)、Columbia University在学(アメリカ)
・濱崎龍洋(ハマサキ・タツヒロ)、George Washington University在学(アメリカ)

SPORT GLOBAL事務局
・辻翔子(FIFPRO)オランダ在住
・椙山正弘(アジアサッカー連盟)マレーシア在住
・阿部博一(アジアサッカー連盟)マレーシア在住
・秋田佑亜 日本在住
・井村瞭介 日本在住

企画の概要説明

SPORT GLOBAL現役生企画は、現在海外の大学院でスポーツ分野について学んでいる3人の日本人現役生に、入学までの経緯、実際の学校の授業、そして日々の生活で気付いたことなどをインタビューしていく企画です。2ヶ月に1回程度の頻度でインタビューをしていき、卒業、そして就職までの道のりをリアルに追いかけていきます。

第2回は、大学院での授業内容、日本と海外の授業の進め方の違いなどに焦点を当てて深掘りしていきます。日本と海外の違いもそうですが、アメリカとヨーロッパでも顕著な違いがある?グループワークは苦戦必須?今回も示唆に富んだ内容になっています。前編、後編に分けてお届けします。

前編はこちら

現役生の紹介

甲斐夏輝(カイ・ナツキ)さん
登場人物A
昨年3月に順天堂大学を卒業し、2021年10月よりバレンシア(スペイン)に渡り、European Sport Business School(ESBS)のMaster in International Sports Managementに入学。現在バレンシア在住。(Twitter: @puyochan_29)
前川友穂(マエカワ・トモホ)さん
登場人物B
三菱商事での勤務経験を経て、2021年9月よりColumbia University(アメリカ)Master of Science in Sports Managementに入学。現在ニューヨーク在住。(Twitter: @tomihonmimanofu)
濱崎龍洋(ハマサキ・タツヒロ)さん
登場人物C
住友商事での勤務経験と2年間のメキシコ駐在を経て、2021年8月よりGeorge Washington University(アメリカ)Master of Science in Sport Management入学。現在ワシントンDC在住。(Twitter: @TatsuhiroHamas1)

日本と海外の違い

登場人物A甲斐夏輝さん

日本の大学との一番大きな違いは、発言しない=授業に参加していない、とみなされるところです。授業の進め方はさっきも説明した通りで、レクチャー動画、リーディングなどの事前課題講義グループディスカッションプレゼン発表、という流れで進んでいきます。各授業20人程度が履修しており、グループディスカッションは56人でする事が多いです。最初は、なるべく大人しくしていようと思ってましたが、講師が各グループを回って学生の参加を促してくるので、気が抜けません。また、特にオランダ人の学生は英語力が高く、議論する文化に慣れているので、ディスカッションになると言いくるめられそうになる事もあります。今では、グループディスカッションで自分の意見をきちんとアウトプットするように心掛けています。

登場人物BSG事務局辻

日本の大学は、大人数の授業が多くて、授業最後のQ&Aで教授に質問する学生はいるけれど、ディスカッションしながら進めていく形式は、確かにあまりないですよね。あとは、日本人は賛否両論お互いの意見を聞きながらディスカッションをファシリテートしていくのに長けていると思うから、そういうポジショニングが出来ると、価値が出しやすいかも。

登場人物BSG事務局椙山

欧米では、ディスカッションやディベート文化が根付いているのは間違いないですね。こういう議論の場は、意見のクオリティに関わらず、言った人の意見が通ってしまう場合が多々あるので、プロジェクト全体そして自分の利益も考えて、意見を出していくのは重要だと思います。

登場人物A前川友穂さん

Columbia Universityでも授業内のParticipation(参加意欲)が成績に反映される仕組みがあり、発言やコミットメントがないと成績に跳ね返るため、積極的に発言しなければならないというインセンティブが学生側に働いていますね。他にも、学生の授業参加を促す仕組みが2つあり、1つ目は、自分の成績の進捗がリアルタイムで確認できる点です。日本だと評価項目は学期末テストの成績や学期中の出席くらいで、評価が最後に分かるケースが多いと思いますが、こちらの大学では、評価項目が色々あり、受けた授業毎の成績(Participation、宿題等)が12週間以内に確認出来きます。「今回はちょっと発言少なかったな。」と思う時は、実際にそれが成績に反映されていて、「次回はもっと積極的に意見を出していこう。」など、都度軌道修正が可能です。2つ目は、Teaching Assistant制度(以下、TAと表記)です。授業をサポートする助手の役割を担うTAがいるので、20人ぐらいの規模のクラスであれば、教授とTAのファシリテーションによりで十分に学生の参加を促せます。

登場人物A濱崎龍洋さん

授業内で、ディスカッションなどアウトプットにこだわっている点は、圧倒的に日本と異なると感じています。あと、甲斐さん、前川さんのプログラム同様に、授業のParticipation(参加意欲)は評価対象となっています。これは、自分が積極的に発言するインセンティブになるのもそうですが、クラスメートが普段何を考えているのか、欧米系とアジア系の学生の思考方法の違いなどが垣間見えるので興味深いです。あと、Peer Review制度(学生同士の評価制度)が、特に個人で進めているプロジェクトにはあって、教授に提出前に、23人でパートナーを組んで、パートナー同士でそれぞれのアウトプットを評価し合います。これは、相手のアウトプットをより良くする為のポジティブな指摘が出来るので、日本人に不足しがちなクリティカルシンキング能力を鍛えるのに役立っています。

登場人物BSG事務局椙山

Peer Review制度(学生同士の評価制度)は、建設的なフィードバックを受ける事に慣れるという意味でも重要だと思う。仕事でサッカーの指導者と関わる事が多いけど、サッカーの指導者は、自分の指導に対してプライドを持っているので、クリティカルな指摘を受けるのを苦手としている節がある。けど、ポジティブ、ネガティブの両方をオープンにディスカッションする土壌のあるところは、質の高い指導者を数多く生みだしていると聞いています。

登場人物BSG事務局阿部

さっき前川さんが、人気授業の履修登録がすぐに埋まってしまう話をしていたけれど、ヨーロッパではどうかわからないですが、アメリカの大学では、教授やレクチャラーに対する学生の評価が、彼らの契約、給与に反映される仕組みがあるので、登録者数がなかなか埋まらない授業は、大学側が打ち切るという場合もありますよね。その意味では、学生と教授の立場がある程度対等だなと思いますが、どう感じていますか?

登場人物A前川友穂さん

ちょうど今、学期末なので、学生側が各授業を評価するサーベイをしていますが、大学・教授は学生の評価をかなり気にしている印象ですね。先程お話した通り、Sports Sponsorship and Salesの授業は自分が期待していた内容と大きく乖離していた事もあり、大学側に正直な意見と改善点等を指摘しました。大学側も毎年生徒を確保しなければならず、受験生は在校生・卒業生のプログラムに対する意見を参考にする場合が多いため、こういった評価は看過できないという背景もあるのではないでしょうか。あと、アメリカでは、一般的に教授と学生が一緒に授業を創り上げていく姿勢があるので、授業がつまらなければ学生も正直に声を上げますし、教授側も学生側に高いレベルを要求してきますので、非常に対等な関係だと感じます。

今までで印象に残っている授業

濱崎龍洋さん(George Washington University)

登場人物A濱崎龍洋さん

Lisaが教えているSport Marketing の授業ですね。特に良い経験になったのは、スポンサーシップの提案を自分たちで考えるプロジェクトです。Los Angeles DodgersやNew York Yankees※(1)など、実在するプロスポーツチームのスポンサーセールス部門になりきる、または、アスリートのエージェントになりきって、自分たちのスポンサーシップをどこかの会社に売り込むという内容です。私は、Loudoun United FC※(2)というプロサッカークラブを選択し、Swish Beverages※(3)という会社に対して、スポンサーシップの売り込みをする事にしました。実際にLinkedInなどで情報を収集して、担当者に連絡を取り、1からプロジェクトをつくり上げていきました。非常に実践的なプロジェクトで、スポンサーシップセールスの”HOWTO”を担当者たちとのやりとりを通して学ぶことが出来ました。

※(1)New York Yankees:ニューヨークにあるMLB(野球)球団。
※(2)Loudoun United FC:ワシントンD.C.にあるプロサッカークラブ。D.C. Unitedのセカンドチームとして2018年に設立し、2019年よりUSL Championship(2部リーグ)に登録。
※(3)Swish Beverages:2015年にニューヨークに設立した飲料会社。BABEと呼ばれる缶入りスパークリングワインの販売がメイン事業。

登場人物BSG事務局椙山

そういう飛び込みでのピッチに対する、企業の反応はどんな感じですか?アメリカは、そういうチャレンジに対して寛容なイメージがあるけど。

登場人物A濱崎龍洋さん

プロスポーツチームは少数精鋭でやっているところが多く、担当者はとても忙しいですが、こちらの話は真剣に聞いてくれます。もしかしたら、彼らが学生だった時にも似たような課題をする機会があり、それが受け継がれて学生を受け入れる良いレガシーになっているのかもしれません。また、実際に学生がつくった提案が採用されるケースもあるようです。自分の提案も採用されるように虎視眈々とプロジェクトを進めました。実は、前職でのコネクションを使って、現実的にスポンサーシップとってくるという事も考えたのですが、ガチガチのアメリカ文化に触れながら、新たなところを開拓したい気持ちがあったので、飛び込みピッチでのスポンサーシップ獲得にチャレンジしました。

前川友穂さん(Columbia University)

登場人物A前川友穂さん

1つ目はSports Facilities and Event Managementの授業です。教授がMetLife Stadium※(4)のスタジアムコンサルタントをやっている方で、Yankee Stadium※(5)のオペレーションの責任者もやっていました。スタジアム業界ではかなり顔が利くため、世界一収益を上げるスタジアムと言われているMetLife Stadiumのディープなファシリティツアーをする事が出来ました。ツアーでは、スタジアムCEOから直接イベントブッキングやオペレーションなどの知見・リアルを学ぶ事ができました。また、スイートルーム、ロッカールーム、運営側裏方までスタジアム内をくまなく見学させて頂き、最後はフィールドに入って良いと言われ、翌日にNew York Giantsの試合を控えたフィールド内を選手目線で走る新鮮な体験も出来ました。

 2つ目は、Sports Accounting and Financeの授業で、過去のMLB巨額ディール(Alex Rodriguez※(6))を用いて、球団への定量的なインパクトを算出の上、投資判断を提言するというものです。現役のNew York Yankeesのファイナンスディレクターである担当教授いわく、授業で用いられたアプローチは、実際現場で用いられる手法と同じらしく、実用性が高く、とても有用なスキルを得られた授業だと思いました。

 最後は、Foundations of Sports Managementの授業です。以前から興味のあったスポーツアナリティクスの会社のCEOと繋がりたいと教授にお願いしていたところ、元々知り合いであったこともあり、授業にゲストスピーカーとして連れてきてくれ、その後個人的にネットワーキングもアレンジしてくれたので、とても印象に残っています。

※(4)MetLife Stadium:NFL(アメフト)球団New York Giants、New York Jetsのホームスタジアム。
※(5)New York Yankeesのホームスタジアム。
※(6)Alex Rodriguez(アレックス・ロドリゲス): Seattle Mariners、Texas Rangers、New York Yankeesなどでプレーした元プロ野球選手。

登場人物BSG事務局辻

学生のフィードバックをすごい取り入れてくれるプログラムですよね?

登場人物A前川友穂さん

言ったものが勝ち!という傾向がありますね。秋学期が始まる前に、各履修科目の教授と30分ぐらい個別面談する機会があって、そこでどんな分野・キャリアに興味があるか伝える事が出来、その内容に応じて教授側も授業内容を調整してくれたりします。また、授業外でも同様で、今大学のスポーツ局(Business & Financeセクション)で働かせて頂いていますが、これも入学前から大学側に米国学生スポーツを勉強するための実務経験としてスポーツ局での勤務希望を強く伝えていた結果、大学側がサポートしてくれました。

登場人物BSG事務局椙山

SPORT GLOBAL Podcastの海外×スポーツビジネスのリアルシリーズで、国際バレーボール連盟で働く波多野陽介さんから話を聞く機会があったけど、彼もAISTS入学してすぐ、「僕は国際バレーボール連盟に就職したい!」とクラスの前で宣言したらしい。このおかげで、国際バレーボール連盟が関わるプロジェクトは優先的にアサインしてもらう事が出来て、最終的には就職も勝ち取っているから、自分の考えている事をきちんと周りに伝えるのはとても重要ですね。

甲斐夏輝さん(European Sport Business School)

登場人物A甲斐夏輝さん

2つあって、1つは、企業理念の授業です。自分たちが実際に起業するとしたら、どのようなリサーチやアクションが必要なのか学びました。最初にSWOT分析、PESTEL分析などのフレームワーク分析の手法を学んだ後に、グループワークで、e-スポーツやアカデミーを立ち上げるなど課題設定をおこない、実際に起業した場合の、マーケティング、アクションプランなどを考えました。実践的なスキルを学べたので、達成感も大きかったです。プランニングをした後、最後にプレゼンをしますが、教授からすぐフィードバックを貰えるのも良かったです。

 最終的に、自分達のチームはPadel(パデル)というスポーツを取り上げてプロジェクトを進めました。Padel(パデル)※(7)はヨーロッパでは人気がありますが、日本では認知度が低く、どうやったらPadel(パデル)の日本での認知度を上げる事が出来るか?という課題設定をしました。実際に、日本のパデル協会に連絡をとって、現状について伺い、その情報をクラスメートと共有、ディスカッションし、大きなゴールを設定し、そこに向かうマイクロステップを考えていきました。卒業要件で、最終的にビジネスプランをつくってプレゼンするというものがあるので、それに向けた良い練習になったと思います。

 あともう1つは、コミュニケーションスキルの授業で、Eurosport※(8)のジャーナリストの方がゲスト講師として来てくれたのですが、自分の興味のあるサイクルスポーツ界の最前線、Tour de France、Giro d’Italia※(9)などでも活躍している方で、直接授業を受ける事が出来、感動しました。日本にいた時は、サイクルスポーツ界での働き方は限定的と思っていたけど、色々な働き方があるとアドバイスもくれました。また、その人はスペイン人なのですが、英語でのコミュニケーション、仕事の準備などの細かいところも教えてくれました。授業の事前課題で、自分達のストーリーをつくってゲスト講師に提出するという課題があったのですが、「いずれサイクルスポーツ界で働きたい!」という自分のメッセージを覚えていてくれたのも嬉しかったです。今でも継続的にキャリア相談をさせて貰っています。

※(7)Padel(パデル):テニスとスカッシュを合わせたようなラケットスポーツ。
※(8)Eurosport:Discovery Inc.傘下のヨーロッパ全域をカバーするスポーツメディア。
※(9)Tour de France、Giro d’Italia:世界最高峰のサイクルロードレース。

登場人物BSG事務局辻

欧米の大学院では、教授やゲスト講師が学生を大人として扱ってくれていると感じますね。授業だけではなく、キャリアまで含めてサポートする姿勢が日本と比べて特徴的だと思います。

苦戦必須?グループワークの進め方

登場人物A濱崎龍洋さん

今学期、グループワークの進め方が難しいと感じました。メンバー間での能力、やる気、アウトプットの質にかなりバラつきあります。あと、日本だとタイムラインを決めて逆算してタスク完了していきますが、期限ギリギリまで自分の担当部分を出してこないメンバーもいるので苦戦しました。グループワークのパフォーマンスは個人の成績にも影響するので、どうにか改善したいと思っています。皆さんどうやって対応していますか?

登場人物A前川友穂さん

先程述べたSports Accounting and Financeの授業で、5人グループでプレゼンするのですが、1人が完全なフリーライダーで何もしてくれないパターンがありましたね。個人的には、グループワークはプロジェクトメンバーの強みで相乗効果を出すのが重要だと思うので、チーム内での自分の役割を予め明確にポジショニングしておくのが効果的だと感じました。

登場人物BSG事務局辻

FIFA Masterでは、5人のチームで1年間かけてやるプロジェクトが最終課題としてあって、正直3人しか戦力にならない状況でした。それでもプレゼンのデザインなど出来る部分はお願いして、コアとなるコンテンツは出来るメンバーでクオリティを上げるようにして乗り切りました。何か強みがあれば、それが活きるように役割を明確にして、それでもダメなら諦めて引き取るのが現実的かもしれませんね。

登場人物A甲斐夏輝さん

各授業で、リーダーとメンバーを講師が恣意的に選び、ローテーションしていくやり方をしているので、チームプロジェクトの役割分担は割と明確ですね。課題提出後にチームメンバーをタイムマネジメント、ネゴシエーションスキルなどのマトリックスで評価もします。これが成績の10%に含まれるので、リーダーもメンバーも基本的には意欲的です。また、自分がリーダーを経験すると、その大変さが理解でき、その後のプロジェクトでお互いを尊重出来るようになる効果もあると思います。

--- 後編はここまで ---

SPORT GLOBALからクロージング

登場人物BSG事務局

2回後編では、日本と海外の大学の授業の違い、印象に残っている授業などにについて伺いました。今後大学院留学を考えている方にとって少しでも参考になりましたら嬉しいです!
今後も定期的にインタビューを発信して参りますので、今後取り上げてほしいテーマや現役生に聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

現役生企画シーズン2の2回目のインタビュー、いかがでしたか?今後も定期的にインタビューを発信して参りますので、今後取り上げてほしいテーマや現役生に聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

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