日時 | 10月9日(日)日本時間22時〜 |
参加者 | 現役生 ・甲斐夏輝(カイ・ナツキ)、European Sport Business School在学(スペイン) ・前川友穂(マエカワ・トモホ)、Columbia University在学(アメリカ) ・濱崎龍洋(ハマサキ・タツヒロ)、George Washington University在学(アメリカ) SPORT GLOBAL事務局 ・辻翔子 (FIFPRO)オランダ在住 ・椙山正弘(アジアサッカー連盟)マレーシア在住 ・阿部博一(アジアサッカー連盟)マレーシア在住 |
企画の概要説明
SPORT GLOBAL現役生企画は、現在海外の大学院でスポーツ分野について学んでいる3人の日本人現役生に、入学までの経緯、実際の学校の授業、そして日々の生活で気付いたことなどをインタビューしていく企画です。2ヶ月に1回程度の頻度でインタビューをしていき、卒業、そして就職までの道のりをリアルに追いかけていきます。
2021年の10月16日の最初の収録から約1年間、大学院留学の経緯、授業内容、卒論、クラスメートなどについて深掘りしてきました。最終回となる第5回は、それぞれの近況、就職・起業の進捗状況、留学を振り返って思う日本と海外の違いなどについて、余すことなく語って頂きました。「このトピック一生話出来るね。」と参加者全員が頷く内容。最終回お楽しみください。
現役生の紹介
- 甲斐夏輝(カイ・ナツキ)さん
- 昨年3月に順天堂大学を卒業し、2021年10月よりバレンシア(スペイン)に渡り、European Sport Business School(ESBS)のMaster in International Sports Managementに入学。現在バレンシア在住。(Twitter: @puyochan_29)
- 前川友穂(マエカワ・トモホ)さん
- 三菱商事での勤務経験を経て、2021年9月よりColumbia University(アメリカ)Master of Science in Sports Managementに入学。現在ニューヨーク在住。(Twitter: @tomihonmimanofu)
- 濱崎龍洋(ハマサキ・タツヒロ)さん
- 住友商事での勤務経験と2年間のメキシコ駐在を経て、2021年8月よりGeorge Washington University(アメリカ)のMaster of Science in Sport Management入学。現在ワシントンDC在住。(Twitter: @TatsuhiroHamas1)
久しぶりなので近況報告
甲斐夏輝さん(European Sport Business School)
今年の6月末に授業は全部終わりました。今は日本にいます。実は9月から*ジャパンサイクルリーグ(Japan Cycle League、以下JCLとする。)でPRの仕事を始めています。大学院の授業や、留学中インターンでやってきた事が活かせる仕事であり、また、ずっと憧れていた夢の仕事に就けて嬉しいです。留学前から、自転車業界で働くために色々インターンシップをしていました。いくつかのご縁が重なって、就職に繋がったと思います。
今年の3月頃にJCLにメールを送り、最初はどんな組織か知る趣旨でミーティングをお願いしましたが、面談をセッティングしてくださり、結果的にジョブオファーを頂くことができました。留学中という事もあり、日本に帰国するのか正直迷っていた部分もありましたが、JCLのトップの方からも、「今後どんどん新しい取り組みをしていく。」、「甲斐さんの次のステップも踏まえてキャリアサポートもしていく。」という話をして頂き、こんなワクワクする会社も、そんな場所で働ける貴重な機会もないと思い就職を決意しました。JCLには様々な分野に関するエキスパートがたくさんいるので、私もその中で少しでも貢献していきたいです。
*ジャパンサイクルリーグJapan Cycle League(JCL): JCLは、UCI国際自転車競技連合に加盟している日本籍コンチネンタルチームおよび地域密着型ロードレースチームで構成されている日本プロロードレースリーグ。(https://www.jcleague.jp/)
前川友穂さん(Columbia University)
前回の現役生企画の収録はインターンを始めたぐらいのタイミングだったと思いますが、夏からインターンを始めて幸いにも期限を延長させて頂くことになり、今は授業と並行して継続しています。大学院のプログラムは今秋学期が最後なので、今まで履修を先延ばしにしていた必修科目も取ったりと卒業に向けてラストスパートといった感じです。
インターンでは、大学院のプログラムで学べない部分を経験出来ています。スポーツ系のリサーチ&コンサルティングファームでインターンをしていますが、先日インターン生全員が発表するコンペで有難くも最優秀賞を頂きました。他のインターン生は各々好きなトピックを決めるのですが、自分は日本人で会社もこれからアメリカ外のビジネスに取り組もうとしているフェーズという事もあり、日本マーケットの戦略リサーチを頼まれました。一人で長々と英語でプレゼンしたの初めてでしたが、自分のスタイルがアメリカで通用するのがわかったのが一番の収穫かなと思います。データドリブンでありながらストーリーを上手く利用したコンサルティングが評価されている会社で、自分もこのスタイルが気に入っているので色々学びを吸収出来たと思っています。一方で、(良い意味で)自分はコンサルティングは向かないと再確認しました。コンサルティングは、どうしても提案で終わってしまう事が多いですが、自分は提案後の手を動かす現場側をより好む傾向があり、今は事業を推進実行する側が自分には合っていると再確認出来ました。
日本のスポーツビジネスに於けるスタッツやデータは、国内マーケットに重点を置いているものが多く、海外からのアクセスが難しい部分はあると思いました。Global Soccer Managementという授業でJリーグクラブのリサーチをやっていますが、英語での参考文献が少なかったので、私以外の生徒は情報収集に少し苦戦していましたね。
確かに、リサーチしていく中で気がついたのは、例えば、Jリーグ、Bリーグなどは財務データがある程度公開されていますが、日本最大のスポーツであるプロ野球の情報などは収集に苦労しました。一方、アメリカでは、チームやブランドのスポンサー契約なども含め、かなり詳細なスポーツビジネス関連データが充実しており、それがサービスとして様々な企業から提供されているので、データの重要性の認識が高く、データに基づきビジネスが展開されているなと強く感じる部分があります(日本のことを知らないだけかもですが)。
濱崎龍洋さん(George Washington University)
夏休みは授業を取りながら、American 7’s Football(7人制フットボール)でインターンをしつつ、起業の準備を進めていました。大学院、インターン、起業準備、この3つに時間を割いて充実した時間を過ごしています。起業に関しては、スポーツIT関連事業、アスリートに焦点を当てた事業です。リモートで起業準備するのは、日本の制度の煩雑さもありなかなかハードルが高かったですが、今月には会社の登記が終わりそうです。中高時代の友人と立ち上げました。大学院に来る前から、在学中に事業を立ち上げるべくブレストをしていました。授業で習った内容から多くのインスピレーションがあり、実際の事業に落とし込むことが出来たと思っています。この秋から冬にかけて事業をより具体化していく段階に入ります。
大学院の同期で起業する人は多いですか?事業化の対象となるのはアスリートは、海外アスリートも含めますか?
大学院の同期で起業している人は少ないですね。インターンをさせて貰っているAmerican 7’s Footballのリーグオーナーはその1人です。多くの学生は、コンサルティング、アナリストとして就職するか、クラブやリーグなどに就職していきます。自分が起業して進めている事業では、第一フェーズの現在は、日本のアスリートを中心に事業戦略を練っていますが、ゆくゆくは海外展開も視野に入れています。第二フェーズとして、市場規模やマクロ経済の成長指標を考慮して、東南アジアを攻めていきたい。最終フェーズとしては、欧米進出が出来れば面白いと思っています。カナダのベンチャー企業が類似サービスを2021年に立ち上げているので、いずれは彼らとの何らかの協業やM&A等を出口戦略のBig Pictureとして描いています。
会社名はDeScratchにしました。”一から”や”これからのスタート”を意味するFrom scratchという英熟語が由来です。私自身がメキシコで働いていたこともありスぺイン語でfromやofを意味するDeを織り込みました。我々としても一からのスタートですし、これから未来あるアスリートと一緒に伴走していく、という意味を込めた社名です。幸い既に6名のアスリートと契約をさせて頂き、事業をスタートさせたところです。
実際に留学をしてみて。収穫、苦労したこと等
自分は、留学してやりたい事が明確だったのが良かったと思います。大学院留学で構築されたネットワーク、日本にはない自転車リーグ、チームの考え方、広報のやり方、日本では使われていないソフトウェアでの分析など、仕事で活かせるスキルを身に付ける事が出来たと思います。就職したJCLの中では、年齢が若い方なので、色々挑戦させて貰える環境があります。就職時の年齢を考えると、学部卒業後すぐに大学院留学をして良かったと思っています。一方、大学院の授業を引っ張っていたのは就業経験がある学生だったのも事実です。彼らの方がレベルの高い議論をしていたし、実務経験に基づき意見交換出来るアドバンテージは大きいかと思います。
自分も大学院留学して良かったと思っています。スポーツに特化した内容を一定期間集中的に勉強する機会は価値があると感じています。また、スポーツ界という独自のエコシステムに入るためのネットワークを得る事も出来たのも大きい点でした。留学のタイミングに関しては、学部卒直後、ある程度のキャリア経験後など色々議論はあると思いますが、個人的にはその人が行きたい時に行けば良いと思っていて、自分が“今”と思えるタイミングがベストだと思います。大学院で勉強した内容に関しては、これまでの経験で身に付けた知識が活きたこともあり、正直真新しいことはなかったです。ただ、既に知っているような内容でも、スポーツビジネスの文脈で学ぶことは非常に意味があり、それをスポーツ業界の第一線で活躍する人が教えてくれるのは、これからスポーツ産業で生きていく上では視座が高まり大きなプラスであったと思います。
あと、一番苦労したのは、やはり英語だと思います。自分は帰国子女でもないので、英語が日本語並に上手ければ、もっと入り込んで核心的な議論できたのになと思った場面が何度もありました。
あとは、社会人経験を一通り経ると、慣れもあってか自分のキャリアパスの中では踊り場のような状態でしたが、キャリアチェンジを含めたアメリカへの留学は久々に“もがく経験”ができたため、こんな年齢においてでも自分の人生に改めてハリを出すことができたのは何事にも代えがたい経験でした。
GWUのプログラムは二年間ですので、現在は漸く折り返し地点に来たところで総括には少し早いですが、総じて留学して本当に良かったと思います。留学のタイミングについては、既に他の人達も述べているように、自分が行きたい時に行くべきだと思います。例えば、今は為替など外的要因を考えると留学するにはベストのタイミングではない、と周りは言うかもしれませんが、私自身の意思決定においてそれらの外的要因やアドバイスの優先順位は低いし、独立事象でした。(とはいえ、最近の円安は相当ダメージがありますが。)ですので、タイミングについては一ミリも後悔はありません。
大学院のプログラムですが、一つ一つの授業の質が驚く程高いというわけではないですが、全体のプログラム構成の質は高いと感じています。36単位が有機的に連動しており、履修している授業が次の学期で少しづつ役立つ。そして、それが積み重なっていく感覚があります。あと繰り返しになりますが、Lisa教授との関係で得られたネットワークは本当に大きいです。一方で、学生の質のバラツキは少し残念でした。正直、就業経験のない学生とのギャップを感じる場面は数多くありました。あとは、学生同士で飲みに行ってスポーツについて語り合うみたいなアクティビティをもっとしたかったです。
やはり苦労したのは英語だと思います。もう少し英語が出来れば、ハイレベルな議論に入っていけたのかなと思う場面が何度かありました。オンライン授業で、イギリス人のゲストスピーカーがブリティッシュアクセント全開で講義された時は、かなり理解が難しかったですね。
留学を経て気がつく海外と日本の違い
ヨーロッパに来て気がついたのは、個の意見が尊重される文化があるところですね。大学院留学を経て、自分の意見を伝える、違うと思う事には“No”と言うスタンスが身に付いたと思います。また、そのおかげですごく生きやすくなりました。日本の同級生が皆就職している中での留学で、焦る時期もありましたが、ヨーロッパの大学院には色んな学生がいるので励みになりました。25歳新卒ですが、他の人達とは違う経験を積んできたという自信がつきました。
日本の良いところ・悪いところをより客観的に見る事が出来たという点に尽きると思います。国家としての日本もそうだし、スポーツ界に関しても、日本の長短所を再確認出来たと思います。個人的には、残念ながら日常的に日本のニュースを耳にする事が少ないことからも、日本の海外でのプレゼンスが落ちていると強く感じます。日本人としてもっと海外で頑張らないといけないなと改めて痛感するキッカケを得ました。
2018年からメキシコに駐在し、それ以降海外での生活が続いていますが、日本の国力そのものの低下を肌で感じる事が多々あります。これは経済的な指標をみても明らかです。アメリカとの対比でいくと、アメリカの新しいものを創造していく強さ、社会の許容度の大きさは、改めて学ぶところがあると思います。政府と民間が新たな創造に対して同じ熱量で向かっていく土壌、仕組みがあると感じます。例えばTeslaの事例ですが、以前、アメリカ政府は、助成金、制度を通じてFordを支援していたと思いますが、近年それが幾分かTeslaにシフトしてきています。そういったマインドセットや構造的な問題点は日米で大きな差を感じてしまうところです。一方で、日本の素晴らしさや強さ、カルチャー的な独自性は絶対にあると思っています。大学院のプログラムに於いても日本人の勤勉さとプロジェクト遂行能力、地頭の良さは高い評価をされている印象です。そういった意味では、海外における日本人や日本が取れるポジショニングは確実にあるはずです。
スポーツ文脈で考えると、日本のアスリートの生涯価値については、まだ最大化出来る余白が多いと思っています。もっと活動の幅を広げていけるはずです。その時に、チーム、リーグ、アスリートの周辺関係者の方々の理解や従来とは変わった価値軸の創出が必要になってくるとになると思うので、そのあたりをDeScratchの事業を通じてサポートしていきたいと思っています。出来ない理由を並べるのではなく、日本のスポーツが更に発展するために、出来る理由を一緒に考えるマインドセットをスポーツ界に醸成していきたいです。
海外留学を考えている人にメッセージ
虎穴に入らずんば虎子を得ず。やりたい事が日本の外にあるなら飛び込む以外に方法はありません。
ご自身の気持ちを大切にされて下さい。留学したいのであれば、留学出来ない理由ではなく、どうしたらそれが出来るのか?を考えて行動することが大切だと思います。
変化を望むならば、リスクを恐れずやるべきだと思います。
SPORT GLOBALからクロージング
最終回の第5回は、それぞれの近況、就職・起業の進捗状況、留学を振り返って思う日本と海外の違いなどについて、話をして貰いました。現役生企画シーズン2としては今回が最終回ですが、甲斐さん、前川さん、濱崎さんの今後の活躍も継続して追っていけたらと思います。この3人のより踏み込んだライフストーリーは、SPORT GLOBALのポッドキャストで発信していきます。是非こちらもチェックしてみてください。
現役生企画シーズン2の5回目のインタビュー、いかがでしたか?今後も定期的にインタビューを発信して参りますので、今後取り上げてほしいテーマや現役生に聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。
また海外の大学・大学院でスポーツを学んでおり、現役生企画に参加いただける方も随時募集中です。ご連絡お待ちしています。