プロフィール
・1987年高知県生まれ
・現在地:東京(日本)
・現職:内閣府地方分権改革推進室参事官補佐
・海外在住歴:2年(イギリス)
ここで記事を書いていらっしゃる他の方と自分が一番決定的に違うと思うのは、私は学生時代にスポーツに熱中したわけでもなければ、観戦者としてスポーツに関心を持ち続けていたわけでもないということです。
もともと政治・行政一般に関心が強かったので、霞が関の中央官庁を志望し、自分の大学のゼミの恩師であり当時文部科学副大臣を務めていた鈴木寛先生がいらっしゃったということもあり、文部科学省に入省しました。鈴木先生はスポーツ基本法制定やオリンピック招致にも関わり、スポーツ議員連盟の幹事長もされていた‘スポーツ系議員‘でしたが、当時の自分は特にスポーツ分野を志望したわけではありませんでした。
文部科学省に入って最初の2年間は大学関係の仕事をしていましたが、3年目にスポーツ庁の前身であるスポーツ・青少年局という部局に異動になりました。当時は2015年のスポーツ庁の設置に向けてスポーツ部局全体が忙しかったですが、新国立競技場の計画内容の白紙撤回騒動がメディアで大きく取り上げられていた時期だったので特に忙しく、もうできるだけ早くスポーツ関係の仕事から去りたいというのが正直な気持ちでした。
スポーツ庁発足後に地域振興担当という、スポーツ庁の中の新しい課に異動になりましたが、それまでとは打って変わって仕事が面白くなりました。一般的な中央官庁の仕事では大変珍しいと思いますが、スポーツ庁発足とともにできた新しい領域だったのでほとんど参考にする前例がありません。新規プロジェクトの立ち上げのようなわくわくする仕事がメインになり、仕事にのめりこんでいきました。
仕事を楽しんでいる傍ら、スポーツ行政の専門性って何だろうと次第に考えるようになっていきました。これは霞が関で働いていると明確に肌感覚として分かるのですが、スポーツ分野については、国に関係する法律といっても、スポーツ基本法のようないわゆる理念法のようなものになり、この行政分野は全く他と違うなと気づきます。またスポーツ界で世界的に最も影響を持っているIOCやFIFAも巨大な組織ですが、国連のような公的機関ではなく、一応民間組織です。その一方で近年はスポーツの産業化が進み、またスポーツの持つ社会的影響力も注目されてきているため、各国政府がスポーツ界に接近しようとしている傾向が世界的にあります。つまりスポーツ行政分野は非常に‘発展途上’な段階だなと思えてきたのです。
スポーツ庁発足後大変楽しい日々も1年弱で終わり、再び文部科学省内の教育関係の部局に異動になりました。しかしスポーツ分野への熱は冷めることなく、国の留学制度を活用して海外の大学院でスポーツ分野を学んでみようと決心しました。これまで国家公務員の留学制度でスポーツを専攻した前例はほとんどありません。日中仕事をしながらの留学準備はかなり大変でしたが、文部科学省内の選考も無事通過し、2018年8月から2年間のイギリス留学が始まりました。社会人生活6年経ての海外生活です。
2年間の留学制度でしたが、イギリスの大学院のほとんどは1年でマスターが取れてしまうので、2つ違う大学院で勉強することになります。1年目の大学に選んだのはラフバラ大学でした。スポーツ庁で仕事をしていた時期からラフバラ大学は世界的にスポーツ分野で有名な大学ということは知っていましたし、日本スポーツ振興センター(JSC)の海外拠点も開設されていた大学だったので特に迷うことなく志望しました。
大規模なキャンパスにスポーツ施設が大変充実している大学で、スポーティーな雰囲気を楽しみつつ落ち着いて勉強できるいい環境でした。特にスポーツ関係で有名な先生が多く在籍されていたので、アカデミズムのネットワーク作りに最適でした。
勉強は英語で課題をこなすことも初体験だったので最初はかなりしんどいと感じ、課題に追われる日々でしたが、そのおかげもあってか、最終的に修士論文(日英のスポーツ政策形成の比較研究)で賞もいただくことができ、充実した大学院生活でした。
ラフバラ大学のコース修了後は、指導教官の薦めやロンドンで生活してみたかったこともあり、ロンドン大学バークベック校に進学しました。同校はロンドンの数ある大学の中でもスポーツビジネスセンターを持っているスポーツ分野に強いと定評のある大学でした。ここでもスポーツマネジメントコースに在籍しましたが、同校は夜間大学院で授業は全て午後6時から。すでにスポーツ分野で働いている社会人も一定数いました。授業後にクラスメートとスポーツパブでサッカー観戦に盛り上がる日常が最高に楽しかったですし、スポーツを通じて世界中から来た若者と友人になれたので、スポーツの持つ力を実感できました。
またロンドン中心部にある大学院だったので先生の紹介でスポーツ関係のインターン先も紹介してもらえました。グローバル都市ロンドンで勉強する最大の強みはここにあると思います。自分はスポーツインテグリティ分野に興味があったので、Sportradarというこの分野での世界的な企業のロンドンオフィスにお世話になることができました。
海外のスポーツ系大学院で勉強するメリットは確実にあります。特にスポーツ社会科学系の学問はイギリスなどのスポーツ先進国と日本の差は歴然としていてびっくりしました。世界的なスポーツ組織のボードメンバークラスになる人間の出身母体はスポーツ弁護士、元選手等いろいろですが、日本はスポーツビジネスの成熟度とも比例しているのか社会科学分野で世界的影響力がないため、ビジネス的なバックグラウンドを持つ方がなかなか発言力を持てないのではないかと推察します。逆にスポーツ自然科学、特にスポーツ医学の分野はアドバンテージがあり、その事実が国際的に影響力のある日本人がスポーツドクター出身者に多いことに繋がっています。日本のスポーツインテグリティ政策も中心はアンチドーピングです。ですので、日本がビハインドな分野、伸び代がある分野に情熱を覚える方はスポーツ留学をぜひしてもらいたいです。
自分はスポーツ業界で働いたことはないですし、スポーツ関係の仕事を実際にやったのもスポーツ庁での約2年半のみです。ただ前述のようにスポーツ行政の分野はまだまだ未開拓ですので今後のスポーツポリシー発展のためにどのように貢献できるのか考えていきたいと思っています。