この企画では国際スポーツ大会や国際機関へのボランティア活動参加経験や、ボランティア活動を通して海外スポーツ界への進出の機会を掴んだ方の経験談を紹介していきます。第5回では、東京2020オリンピック大会ボランティアに参加された小塚創太さんに、ボランティアへ参加した経緯や活動内容を伺いました。

小塚創太さんのプロフィール

小塚創太(コヅカ・ソウタ)
立命館大学スポーツ健康科学部在学。中学・高校でサッカー部、大学から陸上部に所属。オリンピック・パラリンピックボランティア参加後、国際スポーツに興味を持ち、コロナ禍で海外渡航が制限される中で自ら国際的な環境で勉強できる場所を探した。現在、立命館アジア太平洋大学(APU)国際経営学部(大分県)へ1年間の交換留学中。
登場人物B

インタビューQ&A

ボランティアに参加したきっかけは? 

所属していた大学の陸上部へ学生ボランティアの応募がきたことがきっかけです。東京オリンピック開催が2020年から2021年へ1年延期となり、ボランティア辞退者が多く、人数が足りなくなった為、急遽2020年の夏に追加のボランティア募集が掛かりました。当時大学1年生であり時間があったこと、また、次いつ日本で開催されるかわからず、折角話をもらったならやってみようと思い、大学経由で申し込みをしました。

ボランティア参加にあたり必要な資格や条件、事前の準備はあったか?

特段事前の準備はしていませんが、二回程東京に行って事前研修を受け、完成していない国立競技場の中で活動内容に関する研修を受けたり、ユニフォームを受け取ったりしました。

ボランティアの活動内容は?

陸上競技では、競技前の選手たちが荷物をボランティアに預け、荷物をゴール地点まで運び、ゴール地点で受け渡すというフローになっています。私は主に選手から受け取った荷物を運び、ゴール地点で選手に返すという活動をしていました。

また、ミックスゾーンへの選手誘導も活動内容の一つで、競技が終わった選手にマスク等を渡して、ミックスゾーンへ誘導していました。さらに、競技が終わり次表彰へ向かう選手が帰らないよう、選手たちに声を掛け、表彰式へ誘導もしていました。基本的に、競技が終わった選手たちの対応は、全て自分の担当部署の役割でした。

ボランティアで印象的だった出来事は?

特に印象に残っているのは、アフリカ系の選手がメディアの前では絶対苦しそうな表情を見せなかったことです。カメラの前やミックスゾーンを抜けるまでは、彼らはすごく飄々とした表情をしていますが、私たちのエリア(荷物を受け取る場所や着替えをする場所)に来ると、暑さの中で過酷なレースを終えた後であったからか、嘔吐してしまう選手が非常に沢山いました。

なぜ、メディアの前では飄々とした様子なのか聞いてみた処、「自分たちはこのレースでスポンサーを取りにいかないといけない。イメージを良くするため、カメラの前で苦しそうな表情はできない。レースで得たお金を母国に持って帰り、家族や村を豊かにしなければいけないので、カメラの前では絶対弱いところは見せない。」ということを話していました。
この話を聞き、スポーツで豊かになり成功を勝ちとる為に、オリンピックに来ている選手が多数おり、日本人のように感動や悔しさでカメラの前で泣くことは決してないということを知り、非常に印象に残りました。(ただ、自分たちの活動エリアで嘔吐する選手が多数いましたので、対応が大変な場面もありました。)

ボランティア活動で大変だったことは?

私は陸上競技があるときは毎日朝から晩まで活動を入れていましたが、活動時間がとても長かったです。まず、陸上競技は朝と夜に競技がある為、活動も朝のセッションと夜のセッションに分かれていますが、朝は午前7時前には国立競技場におり、夜は日付が変わる位の時間まで競技場にいました。私はボランティア活動の為に、大学のある滋賀県から東京へ来ていましたので、友達の家に泊めてもらいましたが、競技場まで電車で片道約1時間かかった為、帰りは12時過ぎに終電で帰り、行きは始発で、睡眠時間が足りず大変でした。

また、学期末でテストやレポートの提出が重なっていたので、活動時の昼休みに国立競技場でレポートを書いたり、テストを受けたりしていました。さらに、競技が終わったら、活動が終わりではなく、ミックスゾーンを抜けて選手たちが帰るまでが担当の活動でしたので、優勝した選手の場合、ミックスゾーンでの滞在時間が2-3時間かかり、実際に私たちボランティアが帰れるのが、競技が終わって3時間後ということがありました。部署にもよると思いますが、私が活動していた部署は比較的活動時間が長い方だったと思います。

ボランティア活動で嬉しかったことは?

大会期間中、日本陸上連盟(以下、日本陸連)の方と一緒に活動ができ、活動中に色々お話ができたことはとても貴重な経験でした。日本陸連も総動員で大会を作り上げている中で、学生が同じ環境の中で一緒に活動する、という経験はこれまでなく初めての経験でした。

1日の活動時間も長い為、日本陸連の方と会話をする機会も多く、今でも一緒に活動していた日本陸連の方と連絡をさせてもらっています。ボランティア活動を通じて、陸上界やスポーツ界について話ができたことは自分の中でとても大きく、日本陸連の上層部の方がどんな考えをもって、どういう過程を踏んで物事を決定しているか、考え方を知ることができたのはとても貴重だったと思います。

また、有名な陸上選手を実際に間近で見ることができ、嬉しかったです。選手と直接接する中で、実際の選手はテレビで見るよりも足が非常に長く体も二回りくらい大きいこと、また、パラリンピックの際には車いすが想像以上にスピードが出ることや義足が非常に軽いことを知りました。ボランティア活動を通して普段出会えない人と出会えたことは意義のあることだったと思います。

オリンピックとパラリンピックで違うと感じた点はあるか?

世界的な注目度が全然違うと感じました。特にミックスゾーンを抜けてくるスピードが大きく異なり、オリンピックの場合、金メダルを取った選手は2-3時間程度ミックスゾーンに滞在していますが、パラリンピックの場合は1位の選手でも10分程度でミックスゾーンを抜けてきており、ミックスゾーンで待機している記者の数も含め、状況が違うと感じました。また、パラリンピックでは基本的に選手が身の回りのことを全部自分でやる方がほとんどで、手伝おうとしても手伝わないでくれと言われることも多々あり、自分自身ですべて対応することに重きをおいていると感じました。

ボランティア参加者はどんな人が多かったか?

3パターンに分かれており、日本陸連から派遣されている審判員枠と、学生枠と一般枠に分かれていました。審判員枠と学生枠は担当部署が毎日固定、一般枠は毎日担当部署が変わっていたため、一般枠の方はセッション毎に違う方と接していました。一般枠の参加者は主婦層や定年の方が多かった印象です。学生枠では、自ら希望してボランティア活動にきた方は多くなく、大学の部活から一括できている方がほとんどでした。(学生枠の参加者の中には、監督に勝手にボランティア参加者として登録されていた、という例もあったようです。)

活動はシフト制の為、参加できたりできなかったりする人もいましたが、私はボランティアの為に滋賀県から東京に乗り込んできていましたので、「いつでもいけます」というスタンスでボランティアに参加していました。

この経験を今後どう活かしていきたいか?

国内で陸上競技やサッカー(Jリーグ等)のボランティアや大会運営側等に関わった経験は多くありましたが、今後は国内だけに目を向けるのではなく、視野を広げて国際スポーツはじめ、日本の外、世界でうまくいっている例があるのか、学びたいと思うようになりました。特に、オリンピックのような国際スポーツの場では、政治上対立している国同士の選手が、健闘を称えあいながら笑顔で帰っていく姿を見て、平和の実現というスポーツのあるべき姿が象徴されているのではないかと思い、私も国際スポーツをやりたい、作りたい、関わりたいという思いがとても強くなりました。この経験は、自分の中でかなり大きなキーポイントになりましたので、今はAPUへ交換留学する等、国際スポーツに関わるための準備を続けています。いつになるかはまだわかりませんが、国際スポーツの場で何かやりたいなと思っています。

現在大学3年生で、就職をするか、海外大学院への進学をするか悩んでいるところですが、一度就職して社会に出るのがよいかと考えています。大学院へ行くのは、単に勉強するだけでなく、人脈を作りに行くという側面が大きいと思うので、「自分がこういう仕事をして、こういうことができる人間です」というのを確り持って行く方が周りの反応も違うと思いますし、そこで一目置いてもらう為にも、ある程度仕事をして成果を上げてから行く方が、大学院での時間が濃くなるかと考えています。

就職先はスポーツ系に絞ってみていて、スポーツ関連のベンチャー企業等で一度働いて社会に揉まれてから大学院に行くのもありかと思っています。また、今は円安が進み、物価が大幅に上昇している状況の為、海外大学院に行けたとしても、現地でお金がなくなり何もできなくなるのはもったいないので、ある程度働き、金銭面で安定してから行く方が大学院で過ごす時間も濃くなると思っています。

今後ボランティア参加を考えている人へ伝えたいこと

ボランティアへの参加に当たり、ハードル高く考える必要はないと思います。正直、自分もノリで申し込んでしまい、帰国子女でもなく、海外に行ったこともなく、英語も全く話せない状態でした。しかし、今は音声翻訳ツールもありますし、英語が分からなければ、単語を繋げて話す等して人とのコミュニケーションはとれますので、「語学ができない」、「ミスしたらどうしよう」と思う必要は全くなく、とりあえず参加してみてもし悩みができたらその時に考えればよいと思います。ボランティア活動は体力的にきつい現場もあるかもしれませんが、活動は長くても2-3週間程度の限られた期間となりますし、何よりボランティアを通じて得るものの方が圧倒的に多いと思うので、少し無理してでも挑戦してみると今までと全く違う世界が見えてくると思います。

ボランティア情報(2024年パリオリンピック&パラリンピック)

2024年7月26日より開催予定のパリオリンピック&パラリンピックのボランティア最新情報はこちらから!
Paris 2024 – Become a Paris 2024 Games Volunteer

編集後記

東京オリンピック・パラリンピックボランティアを経験後、海外スポーツ界を目指すべく、主体的に行動の幅を広げる小塚さんの今後の活躍に目が離せません!小塚さん、貴重な経験を共有頂きありがとうございました。

ボランティア企画第5回国際スポーツ大会ボランティア参加者へのインタビュー、いかがでしたか?今後も国際スポーツ大会や国際機関でのボランティア活動経験等を纏めていきますので宜しくお願いします。今後取り上げてほしいテーマや聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

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