日時2024年8月10日(土)日本時間21時〜22時半
参加者現役生
・伊藤慎平(イトウ・シンペイ)
筑波大学→高校教員→FIMBA(University of Liverpool MBA Football Industries)
・杉田響(スギタ・ヒビキ)
青山学院大学(中退)→ University of Arkansas(アメリカ)→ Loughborough University(イギリス)
・水口珠莉 (ミナクチ・ジュリ)
University of Sussex (イギリス) → The Football Business Academy(スイス) 

SPORT GLOBAL事務局
・辻翔子(FIFPRO)オランダ在住
・椙山正弘(アジアサッカー連盟)マレーシア在住
・阿部博一(アジアサッカー連盟)マレーシア在住

企画の概要説明

SPORT GLOBAL現役生企画は、現在海外の大学院でスポーツ分野について学んでいる日本人に、入学までの経緯、大学院の授業、同級生について、そして日々の生活で気付いたことなどをインタビューしていく企画です。2ヶ月に1回程度の頻度でインタビューをしていき、卒業、そして就職までの道のりをリアルに追いかけていきます。

2020年にSPORT GLOBALのメインプロジェクトとして始まった現役生企画も今年でシーズン4に突入。これまで日本もしくは海外学部卒→大学院、就業→大学院など様々なキャリアを持つゲストに参加して頂き、イギリス、スペイン、アメリカ、フランスなど、複数国のスポーツマネジメント系の大学院プログラムを紹介して来ました。

シーズン4も、バラエティに富んだバックグランドを持つメンバーが集まってくれました。第1回では、それぞれの大学院を選んだ経緯をシェアしてもらいました。第2回では、それぞれの大学院の授業の特徴、印象に残った授業、課題やクラスメイト、授業以外の時間の過ごし方などについて聞いていきます。

※本文では大学名は以下の訳語を使います。
University of Liverpool MBA Football Industries→FIMBA
Loughborough University→ラフバラ大学
The Football Business Academy→FBA
University of Arkansas→アーカンソー大学
University of Sussex→サセックス大学
The University of Edinburgh→エディンバラ大学
Birkbeck, University of London→バークベック

各大学院の特徴について

登場人物A伊藤慎平さん

FIMBAの特徴の一つとして、一般的なMBAコースと共通の授業があります。一般的なMBAコースは学生が50~60人いますが、FIMBAは14人でした。一般的なMBAコースの学生はインド人留学生がかなり多かったです。FIMBAの学生はサッカーに特化した授業の方がより積極的に参加する傾向があり、一般MBAの科目を魅力と感じていない人もいましたが、私は教員からキャリアをシフトするために留学したので、今まで馴染みのなかった一般的なMBA科目も興味を持って取り組むことができました。

登場人物A水口珠莉さん

FBAは、1年間で6ヶ月はオンライン授業、3ヶ月はインターンシップ、残りの3ヶ月はポルトガルのビジネススクールで過ごします。これが他の大学院と一番異なる点です。さらに、教授陣が実際にサッカーに関わっている方たちなので、リアルな現場の声を直接聞くことができます。また、インターンシップがマストで組み込まれている点もFBAの特徴で、学校側が希望に沿ったインターン先を提案してくれるので、非常に手厚いサポートを受けられます。実際にクラスメイトと一緒に過ごすのは3ヶ月間ですが、オンラインでの授業が始まる前に※ワールドフットボールサミットに参加して、クラスメイトとの距離を縮めることが出来ました。そこでクラスメイトと初めて会いましたが、初めて会ったにも関わらず、オンラインでの交流があったおかげで、まるで何十年来の友達に会ったような感覚でした。またクラスの人数が少なかったこともあり、すぐに打ち解けることができました。例年FBAは40〜50人受け入れていますが、自分のクラスは20人なので特段少なかったです。コロナの影響で応募をためらっていたり、ビザの問題で1年延期して入学した人もいました。その影響で少人数になったのかもしれません。  

※世界中のクラブの経営者、リーグ代表、スポンサー、メディア、技術企業、法律専門家など、多様な分野の参加者が集まり、プレゼンテーション、パネルディスカッション、ワークショップ、ネットワーキングの機会がある、フットボールカンファレンス。

登場人物A杉田響さん

ラフバラ大学の特徴は、スポーツマネジメント関連のコースが2つあることです。一つはスポーツマネジメントコース、もう一つはスポーツマネジメント・ポリティクス&インターナショナルデベロップメント(SMPID)というコースです。主な違いは、スポーツマネジメントコースはビジネスサイドに焦点を当てているのに対し、SMPIDはスポーツと政治やインテグリティなどの問題解決に焦点を当てています。この2つのコースがあることがユニークで、私がラフバラ大学に進学を決めた理由の一つです。大学院の留学先を調べている時に気がつきましたが、デベロップメントやポリティックスに特化したプログラムは限られていて、ラフバラのような環境は貴重だと思いました。ラフバラ大学はスポーツエシックスや価値観を守る活動にも積極的に取り組んでおり、それがラフバラの強みだと思います。

一番印象に残っている授業について

登場人物A水口珠莉さん

私はポルトガルでの3ヶ月間、実際のクラブが抱える課題を解決するという課題が印象に残っています。特に※ウルヴァーハンプトン(Wolverhampton Wanderers F.C.)の方々とアジア戦略、特に韓国を中心としたマーケティングの計画やリサーチを行った経験は、私にとって非常に貴重でした。ウルヴァーハンプトンの方々と毎週ミーティングを重ね、実際の計画やリサーチを基に戦略を立てることで、自分もクラブの一員として貢献できたと感じました。FBAでしかできない経験であり、この経験を通じて、さらにこの業界で働きたいという思いが強まりました。また、その課題のおかげで、私の学校とウルヴァーハンプトンがパートナーシップ契約を結ぶことになったのも嬉しいことでした。この課題はFBAのコースを通じて最も印象に残りました。

※イングランド・ウエスト・ミッドランズ州ウルヴァーハンプトンを本拠地とするプロサッカークラブ。2024年9月現在プレミアリーグ所属

登場人物A杉田響さん

一番印象に残っている授業は「Politics of Sports」という授業です。この授業では、スポーツと人種差別、環境問題、ナショナリズムなど、毎週異なるトピックを取り上げました。授業はレクチャーとセミナーがあり、セミナーでは10人ほどの学生とディスカッションを行いました。例えば、※スポーツイングランド(Sport England)がオリンピックの際に各スポーツにどれだけ補助金を割くべきかをディスカッションしました。グループによって意見が異なり、国ごとの違いが非常に興味深かったです。政治に関する授業は正解がない問いを考えることが多く、様々な国の留学生と一緒に議論できたのが非常に面白かったです。

※イングランドにおけるスポーツ振興を目的とした公的機関。1996年に設立された。具体的な活動としては、スポーツクラブや施設への資金提供、スポーツ教育の普及、地域コミュニティとの連携によるスポーツ参加の促進、さらにはイギリス政府のスポーツ政策の実行支援などがある。

登場人物A伊藤慎平さん

特に印象に残った授業は、スポーツ法学の授業で行った契約交渉のシミュレーションです。この授業では、クラブと代理人選手の間で行われる移籍交渉のシミュレーションを行いました。授業の内容を理解できていたこともあり、とても面白く感じました。交渉ではお互いの利益を守るため、さまざまな手段を駆使して進めていく過程が非常に興味深かったです。授業を通じて、ヨーロッパの移籍市場での動向を見る際にも、代理人がどのようにニュースを操作しているのかなど、考えながら見れるようになりました。また、このシミュレーションを通じて「私は代理人には向いていない」とも感じました。実際のシミュレーションでは、選手側の代理人として参加し、事前に与えられた課題に基づいて戦略を練り、交渉に臨みました。

クラス構成について

登場人物A杉田響さん

私のクラスでは、45人の学生がいて、男女比はおおよそ男性が6割、女性が4割です。国籍も多様で、イギリス人が約20%、インド人や中国人、韓国人が50%、残りの30%は中東や他のヨーロッパ諸国から来ています。私が特に仲が良いのは、サウジアラビア人、ドバイで育ったインド人、そしてケイマン諸島から来た学生の3人です。この3人は非常に優秀で、ネットワーキングづくりが上手な点が印象的です。特にサウジアラビア人とインド人の友人は、授業でも積極的に発言し、教授に食らいつく姿勢が素晴らしいと感じました。

登場人物A水口珠莉さん

クラスメイトの国籍は様々で、イギリス人が2人、デンマーク人が1人、アフリカ人が2人、インド人が1人、カナダ人が1人、アメリカ人が2人など、かなり均等に分かれていました。みんなインターナショナルなバックグラウンドを持っていて、例えば、「カナダで生まれたけど、育ったのはフランス」、「小さい頃からお母さんと一緒に海外行き来していた」など、私もタイで生まれて日本で過ごしていたので、そういう話ができて、すごく仲良くなれました。一方、男女比は20人中3人しか女性がおらず、最初から不思議な結束力が生まれていました。FBAに入学当初は、オンラインだから皆と友達になれるかどうか心配だったんですが、先に述べたワールドフットボールサミットで初めて皆に会ったとき、まるで小中高を一緒に過ごしてきた友達みたいに感じたんです。本当に、何十年来の友達みたいな感じで、お互いのことをよく知っているような気さくさがありました。ポルトガルでは3か月間、皆で一つの建物に住んでいたので、本当に「ご近所さん」というレベルではなく「お隣さん」というか、部屋をノックすれば誰かがいるという感じの近さでした。だから、とても仲良くなれました。その中でも特に仲良くなったのは、アメリカ人とインド系カナダ人の2人で、この2人と相部屋をしていました。この2人とは、スタジアムに試合を見に行ったり、私は飲めませんがパブで試合を見たり、夜中まで語り合ったりと、たくさんの思い出ができました。オンラインでも本当に楽しくて、仲良くなれるととても楽しいです。私のクラスメイトたちは、みんな明るくて素敵な人たちばかりでした。

登場人物A伊藤慎平さん

今年のコースは14人しかおらず、例年よりかなり少なかったようです。昨年は25〜26人いたと聞いています。国籍は様々で、イギリス人が4人、インド人が3人、チリ、メキシコ、カナダ、ウガンダ、ナイジェリアなどから学生が集まっています。男女比は男性が大半で、女性は2人だけでした。この2人はどちらもイギリス人です。クラスの人数が少ないため、皆で団結して行動することが多かったです。そのおかげで、私も仲間から常に気にかけてもらい、孤立せずに済んだのでとても助かりました。また、サッカーを通じて、自分の存在感を示すことができました。語学力に自信がなかったのですが、サッカーをすることで仲間に認められ、そこから良い関係を築くことができました。チリ出身のクラスメイトのマリオとは、チームの中心選手として一緒にプレーしました。彼は元プロサッカー選手です。FIFAマスターとの試合が定期的にありましたが、1回目は私たちがリバプールで行い、相手を大差で破りました。2回目は私たちがレスターに行って試合をしましたが、そこでも勝利しました。授業以外の時間には、皆とパブに行ったりサッカーをしたりする時間が多かったです。仲間との交流を大切にし、英語力を伸ばすためにも積極的に参加していました。日本にいた時とは違い、異なる自分としての一年間を過ごしました。

授業外の時間の過ごし方について

登場人物A水口珠莉さん

授業以外ではみんなで課題を進めたり、リーディングを分担していました。リーディングの量が尋常じゃなかったので、みんなで集まって、「あなたここやって、あなたここやって」って分けて、それをサマライズして後でまとめる、ということをしていました。あとは、みんなでバーベキューをしていました。私たちがいた時期は、雨があまり降らなかったので、みんなで好きなものを買ってきて、土日にバーベキューをすることが多かったです。そして借りてきたプロジェクターで外で映画を観たりもしました。映画パーティー最高でしたよ。授業外の時間も、みんなで仲良く過ごしていました。しかも、すごく急なんですよね。「明日朝6時に玄関の前に集合ね、ウォーキング行こう」なんて急に決まって、それでもみんな絶対参加します。オンサイトが3か月しかないから、みんなで最高の思い出をつくろうという雰囲気がありました。みんな何かしら面白いことを見つけてやっていましたね。誰かがバスケットコートを借りたからバスケをしたり、広い場所が空いているからビーチサッカーをしようとか、授業外はそんな感じで過ごしていました。パブも毎日行きすぎて、パブの店員さんが私たちの名前を覚えてくれるくらいでした。「今日も来たね、君たち」って。

登場人物A杉田響さん

そうですね、僕の授業外の時間の過ごし方は、サッカーをするか、課題をするか、インターンシップに参加するかの3つに集約されていました。ラフバラは本当に何もない田舎町で、大学以外には特に何もありません。自然と留学生同士で仲良くなり、みんなサッカーが好きなので、よく一緒にサッカーをしていました。大学内にスポーツバーのような場所もあり、そこでEUROやプレミアリーグの試合を観ることもありました。課題のグループプレゼンも多かったので、図書館に集まって準備をすることもありました。インターンシップもリモートで行っていて、スポーツテクノロジー系やスポーツマーケティング系の会社で経験を積んでいます。

登場人物A伊藤慎平さん

大学の授業の予習や復習、課題などをやっていましたが、やはりパブに行ったり、みんなとサッカーをしたりする時間が多かったです。そういう時間は大切だと思っていました。特に、仲間との関係を築くため、そして自分の英語力を少しでも伸ばすために、できるだけ仲間と一緒に過ごすようにしていました。眠くても「絶対に行こう」と自分で決めていて、リーダーシップを取ってみんなを引っ張ってくれるマリオという仲間がいたので、ついていってました。日本にいたときの自分とは別人のように振る舞おうと決めていました。日本では子供もいて、結婚もしていたので、夜に外出することはほとんどなかったですから、1年間の別人生活のようでした。

SPORT GLOBALからクロージング

登場人物BSG事務局

シーズン4の第2回は、各大学院の特徴、クラスメイト、授業外の時間の過ごし方など、参考になるお話をたくさん聞くことが出来ました。第3回以降もお楽しみに!

今後も定期的にインタビューを発信して参りますので、今後取り上げてほしいテーマや現役生に聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

また海外の大学・大学院でスポーツを学んでおり、現役生企画に参加いただける方も随時募集中です。ご連絡お待ちしています。

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