この企画では国際スポーツ大会や国際機関へのボランティア活動参加経験や、ボランティア活動を通して海外スポーツ界への進出の機会を掴んだ方の経験談を紹介していきます。第4回では、現在アジアサッカー連盟(AFC)にてグラスルーツサッカー発展(※)業務を担っている、SPORT GLOBAL創設メンバーの椙山正弘さん(以下、まささん)に、アジア最大級のマラソン大会である、クアラルンプールマラソン(2019)でのボランティア活動経験を伺いました。

(※) サッカー界発展の為、年齢や性別、レベル等に関係なく、誰もがサッカーをプレーし、サッカーを続け、楽しむことができる環境づくりを推進すること。

椙山正弘さんのプロフィール

椙山正弘(スギヤマ・マサヒロ)
マレーシア在住、アジアサッカー連盟(AFC)勤務
スポーツマネジメント博士号(マレーシア大学)
登場人物B

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インタビューQ&A

クアラルンプールマラソンのボランティアに参加したきっかけは?

兼ねてからの知り合いである、愛媛大学社会共創学部の山中亮教授(以下、山中先生)から声を掛けてもらったことがきっかけです。山中先生と愛媛大学の生徒たちは、定期的に海外でスポーツを通したボランティア活動に参加していますが、その活動の中でクアラルンプールマラソンに目をつけ、学生たちをマラソン大会のボランティアに参加させるというプログラムの話を持ってきました。山中先生はクアラルンプールに何度か来ており、スポーツボランティアとは違う形で学生と会って話しをする機会を頂いていましたが、20199月に「学生たちとボランティアに一緒に参加しませんか?」と誘ってもらったことで、ボランティアに参加しました。

私は日々スポーツに携わる機会が多々ありますが、一番好きなのはスポーツをプレーすることで、サッカーやトレーニング(ジョギング等)を定期的にしています。また、スポーツをするだけでなく、様々な形でスポーツに関わることが好きで、仕事でもスポーツの発展に携わっていますし、ボランティアでもサッカーのコーチや、イベントのオーガナイザー等、裏方の仕事をすることも多々あります。この時もボランティアの話を受け、ぜひやりたいと思ったこと、また私は若い人たちに自分の経験を伝える活動等も普段からしており、その活動の一環として「プログラムに参加する学生に色々話してあげてほしい」と山中先生から言ってもらったことで、参加を決めました。

ボランティアの活動内容は?

実際の活動は全部で3日間あり、初回は各ボランティアに対して役割等の説明を受けました。2日目と3日目はマラソン大会本番で、2日目はメインのフルマラソン(42.195km)、ハーフマラソン(20km)10kmマラソンの3種目が行われ、私は選手が走り終えた後の受け入れを担当しました。具体的には、選手がゴールしてフィニッシュエリアにきたときに走り終えた選手へフルーツや軽食を渡したり、走り終えた選手の登録手続をしたり、また大会の記念メダルを選手へ渡したりしました。マレーシアは日中の気温が高く、朝の時間帯しか大会を実施することができない為、午前5時頃から最初の種目(フルマラソン)がスタートします。その為、ボランティア参加者もスタート時間に合わせ、午前4時頃から活動開始し、フルマラソンが終了する午前11~12時頃に活動が終わりました。3日目は、ファミリー向けのマラソン大会(5km)等が開催され、沿道に立ち、選手が道に迷わないように誘導する選手誘導を担当しました。活動中は学生も近くにいたので、適宜話をしていました。

ボランティアで印象的だった活動や出来事は?

2日目のゴール地点での選手受け入れでは、一般のランナーだけでなく、トップ選手の受け入れも対応しました。優勝した上位23人は大会ゲストとして呼ばれるアフリカンのトップ選手でしたが、アスリートの体つき、また42.195kmを走り終えた後のやりきった感を間近で見ることができたことが印象に残っています。ゴール地点ではボランティア全員で盛り上げて受け入れをするのですが、上位の選手は走り終えた後、皆からっぽでノーリアクション、ふらふらで早く終わらせてという感じで、アスリートの極限の状態を見られたことにすごく感動しました。一方、一般のランナーは上位選手の反応とは対照的で、走り終えた後、「やったー!走り切った!泣いちゃう!」という感動的なリアクションが多く、これもかなり感動し、自分も走りたいという思いがこみあげてきました。

また、愛媛大学の学生たちが前向きに一生懸命ボランティアに参加する姿勢にも感動しました。マレーシアのスポーツ大会のオーガナイザーは色々と緩い面があるのですが、学生はそれに対して文句を言うというより、理解を示して真摯に前向きに受け入れ、一生懸命対応しており、ダメならダメでどうやっていけば良いかを考える姿勢にとても刺激を受けました。学生たちはみんなで大会を作り上げていこう、日本人グループとしてのカラーを出していこうとする意識を持ち、全員で一体感を作り出しておりとても良かったです。

ボランティアに参加した学生の反応はどうだったか?

直接アンケート等での確認はしていませんが、スポーツを通してのボランティアは今まで接することのない人たちと一緒になって何かをするという中々ない経験であり、このような場でなければマレーシアや日本について情報交換するという機会もない為、すごく刺激的で参加してよかったという感想があったようです。また、スポーツという軸があるので、すごく交流がしやすいというフィードバックも上がっていた模様で、ボランティア参加後も活動を通じでできたグループの輪が続いているそうです。スポーツという軸を通して、多種多様な人と関わることができるのがスポーツボランティアの良さではないかと思います。

現在担当しているグラスルーツ発展とボランティアはどのように関連しているか?

グラスルーツサッカーの発展に当たり、実際にその地域を担当しているサッカー協会と一緒に仕事をしますが(例えば日本であれば日本サッカー協会)、プログラムの重要事項チェックリストには必ずボランティアがあります。なぜなら、ボランティアなくしてグラスルーツサッカーは成り立たないからです。サッカー大会開催は基本ボランティアで成り立っている為、ボランティアをいかにプロモートし、様々な人が参加できる環境をつくることが大切です。

しかし、実際アジア諸国ではボランティアという文化があまりできていないのが実情です。もともとボランティアをするという意識が低く、国や地域によってはお金をもらえないならやらないという風潮がある為、ボランティア文化を醸成することが難しい状況です。(ただ日本は意識が高く、例えばサッカーにおいては各大会がボランティアで成り立つシステムが構築されており、ボランティア文化が高いレベルでできていると認識している。) その為、私が勤めているAFCではボランティアの文化を作ろうというプロモーションをしますし、各地域のサッカー協会には常にメッセージとして発信しています。

現在担当しているグラスルーツサッカーの分野では、ボランティアのシステムや文化はサッカー発展において欠かせないものであり、現場を体験するという経験は自分の中で常にアップデートする必要があるものとして受け止めています。自分自身がボランティアの重要性を発信する立場である為、机上の知識も勿論大切ですが、なぜボランティアが大事なのかというのは実際の経験に基づいて発せられる言葉にこそ意味があると思っているので、色々な形で「スポーツの現場」を大事にしています。ボランティア活動は自分の仕事を意識してというよりは、単に興味があり楽しいので参加していますが、自分の中で「スポーツの現場」における体験の一つとして積み重なっているので、自然に仕事にも活かされるものと思っています。体験していない人の言葉より、実際に体験している人の熱のこもった言葉の方が、人は動かされると思っています。

今後ボランティア参加を考えている人へ伝えたいこと

活動参加への敷居の低さがボランティアの良さだと思いますので、既にボランティアに興味があり、気になっているということであれば、ぜひ迷わずやってほしいです。自分のようにプロフェッショナルな立場でスポーツイベントをオーガナイズする立場からすると、ボランティアは給料をもらって運営に携わっている人とは異なり基本的に無償の活動の為、ボランティアのモチベーションを上げ、一つのチームとして皆で大会を作り上げることがとてもチャレンジングであることを十分認識しています。その為、オーガナイザーは、ボランティアが担当する活動内容のハードルを上げすぎないよう運営していますので、ボランティアに参加される方には余裕をもって気楽に参加してもらえたらと思っています。ボランティアをする中で、活動にやりがいがあり好きだと思ったら、真剣に取り組んでもらえれば嬉しい限りです。また、ボランティア活動の際に、実際にオーガナイズしているプロの人と話をしてみると、どのようにスポーツと関わりたいかが見えてくるかもしれません。他のボランティア参加者や、イベントをオーガナイズしている人たちとコミュニケーションをとり、「スポーツの現場」のコミュニティに入っていくことは、将来に繋がる可能性のあることだと思っていますので、ぜひ前向きに捉え、ボランティアへ参加してもらえればと思います。

一方、ボランティア活動にはあまり興味がないという方にも、ちょっとしたイベントとして、例えば映画見にいこうとか、サッカーの試合に出ようみたいな、そんなノリで参加してもらえたら嬉しいです。スポーツはプレーするだけでなく、支える部分で参加すると面白いことが沢山待っていますし、そのコミュニティに入れるというのは、参加する大会やコミュニティの大小はあれども、新しい発見があり確実に刺激的な経験になると思いますので、自分の中のイベントの一つとしてぜひボランティアへ参加してもらえればと思います。

クアラルンプールマラソンの最新情報

2023年9月30日~10月1日に開催予定のクアラルンプールマラソンの最新情報はこちらから!
klscmarathon(@klscmarathon)さん / Twitter

編集後記

現在海外スポーツ界で活躍されているまささんから、ボランティア活動の経験やスポーツにおけるボランティアの意義や重要性を伺い、海外スポーツ界へ進出するきっかけや手段の一つとしてボランティア活動は有効ではないかと改めて認識しました。まささん、素敵なお話を共有頂きありがとうございました!

ボランティア企画第4回国際スポーツ大会ボランティア参加者へのインタビュー、いかがでしたか?今後も国際スポーツ大会や国際機関でのボランティア活動経験等を纏めていきますので宜しくお願いします。今後取り上げてほしいテーマや聞いてほしい質問などありましたら、こちらのお問い合わせフォーム、またはinfo@sportglobal.jpにメールをお送りください。

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