Times Higher Educationが発表しているランキングなど、一般的な世界の大学ランキングはいくつかあるが、スポーツビジネスに特化した大学ランキングは数多くない。そんな中、SportBusiness*はSportBusiness Review**を通じて「スポーツビジネス大学院ランキング(Sport Business Postgraduate Course Rankings)」を毎年発表している。以下、このランキングは以下PGRと呼ぶ事とする。
SPORT GLOBALでは、2020年から継続してPGRを分析した記事を掲載している。スポーツビジネス、マネジメント分野での海外大学院留学の参考にして欲しい。また、ランキングの評価基準が気になる人は、先に【ランキングの評価基準】を確認してから【2023-24年ランキング】に進んで欲しい。PGRはランキングの評価基準を毎年見直しており、ランキングを形骸化させない努力をしているところも信頼が置ける。
(2020年、2021、2022年のランキングはこちらをご参照ください)
2023-2024年ランキング
2023-24年のトップ10及びSPORT GLOBALで取り上げているプログラムは以下の通りだ。2022年に1位だったUniversity of Massachusetts Amherstが2年連続で1位にランクインしている。2位も昨年同様にOhio Universityがランクイン。毎年細かな順位変動はあるが、過去4年間(2020年~2023年)のランキングで常にトップ10にいる大学は、University of Massachusetts Amherst、Ohio University、The International Centre for Sport Studies (CIES)、George Washington Universityとなっている。これらの大学はランキング内でオレンジでハイライトしており、安定的に最高水準の教育、キャリアサポートを提供するプログラムと考えられる。
一点、これはどのランキングにも言えることだが、PGRも「欧米バイアス」が掛かっている。特にアメリカのプログラムの引きが強い印象がある。今年はランクインしていなかったが、オーストラリアのDeakin Universityや、日本のつくば国際スポーツアカデミー(Tsukuba International Academy for Sport Business)など、アジア圏にも魅力的なプログラムは存在するので、きちんと自分自身でリサーチして欲しい。
2023‐2024年ランキング・オンラインプログラム
今回のランキングから新たに掲載されたのが、オンラインプログラムである。大きな理由としては、コロナ禍でリモートによるプログラム受講のニーズが高まったことがあげられると思うが、パンデミックの有無に関わらず、オンラインプログラムは社会人が仕事と両立しやすく、更に、学費と生活費をある程度抑えることが出来るメリットがある。Sport Globalの現役生企画で取り上げている渡邉宏樹(ワタナベ・ヒロキ)氏は、オンライン・オンサイトのハイブリットプログラムである、The Football Business Academyでの就学経験を細かなところまでシェアしていくれているので、オンライン、ハイブリットのプログラムに興味のある人はサイト内で是非チェックして欲しい。
大学・大学院選びの考え方
SportBusinessランキング全体を見渡すと、大きく3つのカテゴリーが浮かび上がる。それぞれに特徴があるので、自身のニーズと照らし合わせて進学先のプログラムを選ぶ必要がある。
- CIES(FIFAマスター)、AISTS (国際オリンピック委員会所管)、Real Madrid Graduate School(レアル・マドリード大学院)など、スポーツ組織を母体とするプログラム
- Columbia University(コロンビア大学)、George Washington University(ジョージ・ワシントン大学)など、世界的に知られている名門大学
- University of Massachusetts Amherst(マサチューセッツ大学アマースト校)、Ohio University(オハイオ大学)など、スポーツビジネスに独自の強みを発揮する大学
FIFAマスターなどのスポーツ組織を母体とするプログラムは、メガスポーツ大会のノウハウをカリキュラムに落とし込んでおり、更にスポーツ界に精通した専門家が講師陣に揃っているのが魅力だ。卒業生のスポーツ界でのプレゼンスも高いので、コネクションをうまく築けば就職確率も高まる。一方で、専門領域が狭いので、ポストが限られているスポーツ界で就職出来なかった場合、学んだ内容を汎用的に活かすことは難しいかもしれない。これは、University of Massachusetts Amherstなど、スポーツビジネスに独自の強みを発揮する大学にも同様のことが言える。
George Washington University(ジョージ・ワシントン大学)など、世界的に知られている名門大学の場合、基礎プログラムの質と知名度が高いため、スポーツマジメント外の分野でも汎用的に学びを活かせる可能性がある。特にアメリカのプログラムはMBAに紐づいているケースが多く、ビジネス全般を学びながら、スポーツビジネスのニュアンスも学ぶといった留学も可能だと思う。一方で、事前にスポーツ界での働き方を具体的にイメージしておかないと、専門性を身につけるのに苦労する可能性がある。また、名門大学は学費が高額な傾向がある。
このように様々な角度から大学・大学院選びは考える必要があるが、以下の6つの軸を考えると、自身のニーズを整理した状態で、大学・大学院を選ぶことが出来るはずだ。
- 大学・プログラムの知名度
- 学費
- 専門性
- 立地
- 就職力
- 卒業生ネットワーク力
卒業生の平均収入
今年も、卒業後の平均年収データも公開されたので、参考までに掲載したい。スポーツビジネス修士プログラムの卒業後の平均年収はUSD 92,396となっている。2022年のUSD 100,784から8%程度微減している。特徴的なのは、オンラインプログラムが上位を占めていることだ。おそらく、既にある程度「稼ぐ力」があるタレントが、オンライン・ハイブリットプログラムを活用して、効率よく専門性を身につけ、更に「稼ぐ力」を身につけてスポーツ界に戻るというパターンが形成されつつある。また、これは例年なのだが、総合ランキングと平均年収が必ずしも相関していないことにも気がつく。参考までにアメリカのトップビジネススクールの卒業後の平均年収USD 125,000(Survey: MBA Graduates’ Starting Salaries Estimated to Increase)をベンチマークすると、平均年収ではまだ若干の開きがある。しかし、一般的なトレンドとしてスポーツビジネスは世界的に拡大方向であり、その魅力は年々増している。その魅力に更に優秀な人材が集まり、コンテンツが磨かれ、より多くの人達を巻き込みスポーツビジネスが発展していけば、おのずと平均年収は上がっていくだろう。
ランキングの評価基準
ランキングの評価項目は以下の通り。サーベイ形式で実施される学生からの評価に最も大きなウエイトが与えらており、卒業後の雇用状況も重視されている。入学難易度ではなく、学生満足度、卒業後の進路(就業)に焦点が当てられている。サーベイは3年前の卒業生が対象とされ、2023-24年のランキングは、2020年の卒業生のフィードバックを反映した結果になっている。
*SportBusiness
SportBusinessは、ロンドンに拠点を置くスポーツメディア・コンサルティング会社である。1996年の設立以来、グローバルレベルでスポーツビジネスニュース、データ、分析、コンサルティングサービス等を提供してきた。本社はロンドンにあるが、アメリカやシンガポールにもオフィスを持っており、世界中のスポーツビジネスの情報を蓄積、分析、アップデートしている。
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**SportBusiness Review
SportBusiness Reviewは、SportBusinessが月刊発行しているスポーツビジネスの専門誌だ。ハーバードビジネスレビュー、エコノミストなどの、スポーツビジネス版と考えるとわかりやすい。スポーツビジネス分野においてパイオニア的な専門誌である。