皆さま、こんにちは!冬季オリンピックが終わりましたね。
印象的なシーンはありましたか?私はフィギュアスケートが昔から好きなので、今回の五輪は一層と興味深い大会となりました。
さて!今回はいつもより具体的なお話ができたらと思います!スポーツ心理学者がどのようなことをやっているのか、皆さんにお伝えできれば嬉しいです)^o^(
Kottiのプロフィール
- Kotti (広瀬琴乃音さん)
現在地:ロンドン(イギリス)
職業:学生(St. Mary’s University大学院のMSc Applied Sport Psychologyコースを2021年9月に卒業) -
日本で生まれ育ち、11歳の時に父の転勤で渡仏。その後もともと習っていたピアノを本格的に取り組むようになり、高校に上がる前に音楽と学業を両立するコースに合格し転入。15歳の時に両親が日本に帰国した後も、一人フランスに残り学校・レッスンの行き来な日々を過ごす。その頃から、どうやったら、”メンタルが強くなれるのか”と考えながら過ごし、パリ大学で心理学を専攻、英国Southampton大学に一年間の交換留学を経て卒業。その後、ずっと興味があったスポーツ心理学を学ぶ為にロンドンにあるSt. Mary’s University大学院に進学。MSc Applied Sport Psychologyコースに在学中。
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アスリートのアセスメント方法
ところで皆さん、病院に最近行かれましたか?病院に行くと、お医者さんが診断をしてくださいますよね。
診断するために、問診票を書いたり、喉や耳を見てもらったり、あとは、最近変わったことや生活習慣など、質問されますよね!
そして、それに応じてお薬や治療法などを提案してくれます。
実は、スポーツ心理学者もお医者さんと同じように、今目の前にいるアスリートに何が必要なのかを見極めて、どのようなメンタルトレーニングを提供するかを決めます。
これを、Assessment (アセスメント) と言います!(一応書いておきますが、お薬の処方はできません!)
アセスメントは、必要なメンタルスキルを特定するだけではなくて、その人個人に合ったメンタルテクニックや介入法見つけるために、とても重要な過程です。
お医者さんと同じようにスポーツ心理学者も様々な方法を使ってアセスメントをします。
主な方法は4つ:
- Observation (観察)
- Interview (カウンセリング)
- Questionnaire (問診票)
- Performance Profiling (パフォーマンスプロファイリング)
この4つのうち、複数(3つ程)のツールを使ってアスリートの必要を探ることがポイントとなってきます(これを Triangulation トリアンギュレーションと言います; Johnsson, 2003)。お医者さんの例だと、セカンドオピニオンに近いものかと、私は思います。
クライエント一対一で接するカウンセリングで分かることもあれば、自然な環境にいるクライエントを遠くから観察することで見える一面もあります。
逆に、問診票やPerformance Wheel はアセスメントをする側の主観を減らすことができます。それぞれの良いところを組み合わせることで、より正確なな診断ができるということですね。
Performance Profilingについて
ここで、一つ注目したいのが、4つ目のPerformance profiling (Butler & Hardy, 1992) です。
これは、アスリートの必要を可視化させるとても便利で興味深いツールです!アスリートとして、どの性質(Physical, mental, technique & tactics) が優れていて、逆にまだ伸び代がある性質は何かというのを一目で表してくれます!
使い方を簡単に説明すると:
- スポーツ心理学者がアスリートに”あなたにとって、ベストパフォーマンスに必要な性質を教えてください” と質問する
- アスリートは、自由に(physical, mental, technque & tactics と、満遍なくあったら良い)選び、書き出してもらう
- アスリートに、”それでは、今の自身のパフォーマンスを1から10で各性質を採点してみてください”と言う
- 全部に採点し終わったら、一緒に強みと伸び代がある性質についてディスカッションする
- 心理、メンタル面で改善の余地が目立ったら、その部分のスコアを上げる為のメンタルトレーニングを提案する!
こんな感じですね!グラフでも、レーダーチャートのような形でもできます。
また、プラスアルファの使い方は、コーチにもアスリートを採点してもらうことです。
アスリート、コーチの採点法の違いを可視化することで、新しい課題(なぜ見え方が違うのか、アスリートの自己認識の精度)を見つけることも可能です。
個人的には、二人三脚(心理学者も入れると三人四脚?)で目標や課題の明確化をすることで、関係性を深め、モチベーションも上がるのではないかなぁと思っています(^_^)
もちろん、スポーツだけではなくて、ビジネスや音楽家など、別の分野にも使えるから、魅力的ですよね!
パフォーマンスプロファイリング以外の3つは研究などにも使える方法なのですが、研究とアセスメントでは目的が違うので、もちろん多少違うところがあります。
アセスメントの場合は、個人のクライアント、またはチーム全体に”何が必要か”を探る過程なので、相手に寄り添った姿勢を持つことが大事です。
これを踏まえて、上記に出した、4つの方法に共通するポイントは、第3回目でお話に出た、カウンセリングスキル。『傾聴』、覚えていますか?
クライエントとの距離や、良い関係性を築くために重宝します。(これを、Rapport Building ラポール形成と言います)
ラポールは簡単にいうと信頼関係みたいなものです。アスリート(クライエント)が心開いて、彼ら彼女ら自身のことを話しやすい関係性、環境を作ることはより正確なアセスメントのために必要不可欠です。ラポールはアスリートと”初めまして”の一瞬から育まれるので、メンタルトレーニングや治療を提供する前の、アセスメントの段階から意識することがとても大事ですね。
まとめ
アセスメントは主に4種類ある!
色々なツールを使って正確に必要性を知ることで既に、クライエントのモチベーションを上げることができる!
アセスメントはメンタルトレーニングプログラムの方向性と、ラポール形成が始まる重要なステップ!
参考文献
Butler, R. J., & Hardy, L. (1992). The performance profile: Theory and application. The sport psychologist, 6(3), 253-264.
Johnsson, R. (2003). Case study methodology. Open House International, 32, 22-24
Weston, N., Greenlees, I., & Thelwell, R. (2013). A review of Butler and Hardy’s (1992) performance profiling procedure within sport. International Review of Sport and Exercise Psychology, 6(1), 1-21.
SPORT GLOBAL編集部より
全部で4つあるアセスメント方法のうち、3つ以上組み合わせるのがポイントというのが新たな発見でした。多角的かつ入念なアプローチを用いて初めてアスリートの必要を正確に理解できるというのであれば、実際に自分が本当に求めているメンタルトレーニングを受けているアスリートはどのくらいいるのだろうと考えてしまいました。
メンタルは目に見えず、触れないけど、評価と介入をこうやって定量化しているのか!というのが良くわかる。今後、スポーツ心理学を活かした事例が、現場レベルでもっと出てくるはず。
自分はトップアスリートとしての経験はないけれど、自分がスポーツを真剣に高みを目指してやっている時に、もしこのようなアセスメントを専門家にしてもらえたらどれだけ助かっただろうか?専門家ではなくても、指導者にある程度の知見を持って話を聞いてもらえるだけでも、アスリートの人生は大きく変わるのではなかろうか?
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